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認知症の方との接し方|してはいけないこと・心がけること

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認知症になると、これまで通りのコミュニケーションが難しくなるため、介護する側が苛立ってしまうこともあるでしょう。

介護者が疲弊することのないように、認知症の方との正しい接し方は覚えておきたいものです。

そこで本記事では、認知症の方と接する際に気をつけるポイントや、トラブルへの対応方法を解説します。

「認知症のご家族に安心して暮らしてほしい」とお考えの方は、参考にしてください。

 

認知症の方との接し方の基本

認知症の方と接するときには、心がけるべきポイントがあります。

まずは、これだけは押さえておきたい4つの基本を紹介します。

 

①本人の話をよく聞く

 

認知症の方と接するときは、何よりもまず、ご本人の話に耳を傾けましょう。

その際、「私のことを理解してくれている」と感じてもらえるように、話を聞きながら相槌を打って、肯定や共感を伝えるのが大切です。

 

また、うまくできたことを褒めたり、相手の行動に感謝の気持ちを示したりすることも、意識したいポイントです。

認知症になると、一人でできないことが増え、ネガティブな気持ちや疎外感を抱いてしまうことがあります。

賞賛や感謝の言葉で沸き立つ「誰かの役に立っている」という思いは、ご本人の喜びや安心につながります。

 

②明るく大きな声でゆっくりと話す

 

こちらが話すときは、相手の耳元に近づき、大きな声でゆっくりと話してください。

 

認知症の方に限らず、高齢者であれば老化によって聴力が衰えているかもしれません。

耳が遠くなると、周囲に話しかけられたときに、心ならずも無視する結果となってしまい、「言葉を理解できなくなった」と誤解されるケースがあります。

左右の耳で聴力に差がある場合は、聞こえやすいほうを確認しておくことも重要です。

 

円滑にコミュニケーションをとるために、明るい口調で大きな声を出すことを心がけましょう。

 

③短く、わかりやすい言葉を選ぶ

 

会話の際に、短く、わかりやすい言葉を選ぶことも大切です。

 

聴力の衰えにくわえて、認知力が低下すると、長い言葉を聞き取れなかったり、難しい話を理解できなかったりと、コミュニケーションに問題が生じます。

そのため、伝えたい内容があるときは、簡潔でわかりやすい言葉を選んで、相手に理解してもらうことを意識しなければなりません。

 

何かを質問するときは「はい」か「いいえ」で答えられるように問いかけるなど、相手の理解度に応じて会話の中身を工夫しましょう。

 

④目や視線を合わせる

 

相手の目を見ながら接するのも、忘れてはならないポイントです。

 

認知症の方に声をかけても、聴力や認知力の低下が原因で、話しかけられていることに気づかない可能性があります。

目を合わせてコミュニケーションをとることは、相手に「自分と会話している」と自覚してもらうために効果的です。

 

とはいえ、横になっている方や、車椅子に乗っている方に対しては、立ったまま話しかけると、相手を見下ろすかたちになり、威圧感を与えてしまいかねません。

そのようなときは、少ししゃがんで視線を合わせると、安心してもらえます。

 

また、しっかりと相手の名前を呼んであげるのも、会話していることを意識してもらうためのテクニックです。

 

認知症の方と接するときに気をつけること

認知症の方との接し方の基本は、ご理解いただけたでしょうか。

続けて、コミュニケーションをとるうえで気をつけたい注意点についても紹介します。

 

①否定しない・叱らない

 

認知症の方と接するときは、頭ごなしに否定したり叱ったりしてはいけません。

 

ご家族が理解できない言動にも、ご本人からすると、理由や目的があります。

自身の思いが伝わらず、一方的に否定されては、ご本人のプライドが傷ついてしまいます。

 

お互いの信頼関係を崩さないためにも、きちんと話を聞いて、相手を受け入れる姿勢を示すことが大切です。

 

②急かさない

 

認知症になると、今までできていたことができなくなったり、時間がかかったりします。

それでもなんとか、自力で解決しようとしているときに、周囲が急かしてしまうのは厳禁です。

 

「早くして」「いつまでやっているの?」などと声をかけられると、集中力や自信を失い、前向きに取り組む気持ちが萎えてしまいます。

ご本人が一人で何かを行っているときは、焦りを生むような言葉は呑み込み、余裕をもって見守ってあげましょう。

 

③できることを奪わない

 

認知症が進むとできることが少なくなるとはいえ、時間をかければ一人でもできることや、周囲の助けがあればできることはたくさんあります。

そのような残された能力を尊重せず、すぐに「私がやるから」「危ないからやめて」と待ったをかけるのは避けたいところです。

 

可能な限り自分の手でできることを続けるのは、達成感を得るために重要ですし、残された能力を長く保つうえで重要です。

ご本人のやる気があるうちは、一歩引いたところから見守り、危険なときにだけサポートするなど、適切な距離感で接しましょう。

 

④間違いを無理に正さない

 

認知症の方が起こした誤った振る舞いを、無理に正さないことも大切です。

ほとんどの場合、ご本人には、間違った行動をしている意識がないため、正面から訂正されると、怒りや恥ずかしさを覚えます。

 

「それは〇〇じゃないよ」「そんなことしないで」と言いたくなるときもあると思いますが、相手のペースに合わせて感情を刺激しないようにしてください。

ときには、優しい嘘でその場を和ませてあげるのも、大人の対応です。

 

⑤驚かせない

 

威圧的な態度をとって、驚かせることも禁物です。

 

認知症の方は、常に不安を抱えて過ごしています。

ご家族の望んだ行動をとらなかったとしても、無理強いや脅しての誘導は、恐怖心を煽るだけでよくありません。

 

たとえば、入浴を拒否したときは「いいから早く入って」「あとで困っても知らないよ」と突き放すのではなく、相手が嫌がっている理由を優しくたずねるようにしてください。

熱いのが理由であれば、お湯をぬるくするなどの適切な対応をとり、ご本人に納得してもらえるよう工夫を講じましょう。

 

⑥もの忘れを無理に思い出させようとしない

 

もの忘れを無理に思い出させようとしないことも、心がけてください。

 

認知症を患うと、記憶障害が起こり、日常生活に支障をきたすようになります。

加齢による記憶力の低下と異なるのは、ご本人にもの忘れの自覚がない点です。

 

ご本人は自身の記憶を正しいと思っているので、もの忘れを指摘すると、そのことを受け入れられずに、こちらが嘘をついていると判断されるおそれがあります。

ときには事実を説明するのではなく、話を合わせてあげるほうが、良い関係性を維持することにつながります。

 

⑦励ますのはほどほどに

 

認知症の方とのコミュニケーションで気をつけなければならないのは、否定するような言葉や威圧的な態度だけではありません。

「もっと頑張ろう」「〇〇ならできる」といった励ましの言葉も、ご本人にとってプレッシャーとなり、不安を増幅させてしまうおそれがあります。

 

周囲はよかれと思って励ましていたとしても、ご本人は、認知症によって能力が衰えている現実を前にして、情けない感情に襲われてしまいます。

相手を思いやる気持ちは大切ですが、できないことを激励するよりも、できることに着目し、認めてあげるほうが、ご本人の励みとなるはずです。

 

⑧無視や放置でストレスを与えない

 

たとえ認知症の方に、同じ質問や要領を得ない話をされたとしても、無視や放置をしてはいけません。

そういった対応は、相手に孤独や不安を感じさせ、ストレスの要因となります。

 

ストレスが溜まってくると、大きな声を出したり暴力を振るったりと、粗暴な振る舞いの原因になることもあります。

接し方には十分注意し、必ず相手に対してリアクションを返してあげましょう。

 

⑨家の中に閉じ込めない

 

認知症が進行すると、突然の外出や深夜徘徊を起こす場合があります。

そのような事態に陥ると、ご本人を心配するあまり、つい、家の中にいさせようと考えてしまうものです。

 

しかし、無理に家の中に閉じ込めておくと、かえって症状を悪化させることになりかねません。

家の中から出られないとわかると、外に出たいという欲求が高まり、さらなる徘徊を引き起こすリスクがあります。

 

こちら側の都合で閉じ込めるのではなく、ご家族が一緒にいる状態で適度に外出させるなど、ご本人の希望を尊重した対応をとりましょう。

 

介護者が認知症を受け入れるまでの心理的ステップ

認知症の方と接する際に注意しなければならないことは非常に多く、介護者の負担はどうしても大きくなりがちです。

負担に押しつぶされて心身の健康を損ねないために、あらかじめ介護者がたどる心理状況を把握しておきましょう。

 

ご家族などの介護者が、認知症を患った方を受け入れるまでには、4つの心理的ステップがあるといわれています。

以下4つのステップは、公益社団法人「認知症の人と家族の会」の杉山孝副代表理事が考案したものです。

 

【心理的ステップ】

第1ステップ とまどい・否定
第2ステップ 混乱・怒り・拒絶
第3ステップ 割り切り または、あきらめ
第4ステップ 受容

 

認知症になると、今までできていたことができなくなったり、突然不思議なことを言い出したりと、これまで周囲に見せたことがない振る舞いを見せます。

このような状態に接して、最初、ご家族などの介護者は動揺し、ご本人が認知症になった事実を否定しようとするでしょう。

 

次に、第2ステップである「混乱・怒り・拒絶」の段階に移ると、介護者は身体的にも精神的にも疲弊していきます。

そのような日々が繰り返されると、「認知症はどうしようもないものだ」と感じるようになります。

これが第3ステップの「割り切り または、あきらめ」の段階です。

 

そして、介護する過程で、徐々に認知症に対する理解が深まっていき、最終的にたどり着くのが、第4ステップである「受容」の段階です。

この頃には「自分も将来認知症になるかもしれない。一生懸命介護したい」という気持ちをもてるようになります。

 

参照元:公益社団法人認知症の人と家族の会『介護者のたどる4つの心理的ステップ』

 

認知症でよくあるトラブル別・対応のポイント

 

ここからは、認知症でよくある具体的なトラブルと、それぞれの適切な対応について解説します。

あらかじめポイントを押さえておき、トラブルが起きた際も落ち着いて対応できるように備えておきましょう。

 

人物誤認

 

人物誤認は、認知症の方に見られることが多い症状の一つです。

 

記憶機能が衰えたことで、ご家族など、よく見知った相手に対して「どちらさまですか」と尋ねることや、別の人物だと誤認することがあります。

ご本人の両親や昔の知人などに間違われたときは、事実を突きつけるのではなく、話を合わせてその人物になりきり、安心させてあげましょう。

 

見当識障害

 

見当識障害は、現在の年月や時刻、自分がいる場所などが把握できなくなる障害です。

記憶障害と並んで、認知症の初期段階から現れます。

 

具体的には、何度も繰り返し日付を確認したり、昼夜が逆転した行動をとったりすることが挙げられます。

それぞれ「見やすい場所にカレンダーを置く」「昼の活動量を増やして夜に眠くなるように

する」といった対策が効果的です。

 

もの忘れ

 

認知症の方と暮らしていると、もの忘れによるトラブルも頻繁に起こります。

たとえば、ご飯を食べ終わった直後に、そのことを忘れて食事を催促するといった話を耳にしたことがあるはずです。

 

しかし、事実を伝えたとしても、納得してもらうのは難しいものです。

そこで、相手がもの忘れしてしまうことを逆手にとり、席を立って少し時間を空けることで、食事を催促していたことを忘れてもらうという手もあります。

 

幻覚

 

認知症の種類によっては、幻覚を見て、恐怖や不安を感じることもあります。

実際には何も起こっていないにもかかわらず、突然興奮し、周囲には理解できない内容を訴えてくる場合があります。

 

その際は、ご本人の感情を否定せずに、受け入れてあげることが重要です。

ただし、幻覚は服用中の薬に起因して生じることもあるので、症状を繰り返すようなら、医師に相談してください。

 

帰宅願望

 

記憶障害や現状に安心できないことが原因で「家に帰りたい」という欲求が高まり、あてもなく外に出てしまうことがあります。

このような帰宅願望は、外出時だけではなく、自宅にいるときにも起こりえます。

 

ご本人が外に出ようとしたときには、正直に「家はここだよ」「外は危ない」といった、相手の気持ちを押さえつける言葉は控えてください。

余裕があれば、一緒に外を歩きながら、ご本人が「家に帰りたい」と考える理由を探ってみましょう。

 

徘徊

 

徘徊もまた、認知症の方に頻繁に起こりうる症状です。

昼夜を問わず、屋内外を目的もなく歩き回ります。

家の外に出て徘徊する場合、事故に巻き込まれたり、行方不明になったりする可能性があり、非常に危険です。

 

だからといって、無理に止めようとすると逆効果です。

持ち物にGPSを取り付けたり、近隣の交番や施設と情報共有したりと、トラブルが起こった際に万が一の事態を避けられる対策を事前に施しておきましょう。

 

性的逸脱行動

 

介護者に対して、性行為を迫ったり性器を露出したりする「性的逸脱行動」も、認知症の症状の一つです。

 

これは、判断力が低下したことで、性的欲求をコントロールできずに起こります。

また、寂しさや不安が原因で発症することもあるため、なるべくご本人を一人にせず、誰かと一緒にいる時間を増やすと、症状が緩和される場合があります。

 

それでも一向に改善されなければ、ご本人の尊厳を守りつつ、介護者自身も傷つかないように、医師などの専門家に相談することも考えてください。

 

もの盗られ妄想

 

自身の持ち物を誰かに盗まれたと思い込む「もの盗られ妄想」も、トラブルの種です。

 

これはほとんどの場合、認知症によって起こる記憶力の低下にともない、置き忘れやしまい忘れが発生することが原因です。

ご本人にその自覚がなければ、探し物が見つからない際に、誰かに盗まれたと考え、身近な人を疑ってしまいます。

 

否定しても信じてもらえない可能性があるので、ご本人の気持ちを受け止めて、なくした物を一緒に探してあげましょう。

「盗まれた」という疑念を払拭するために、なるべくご本人の手で発見できるように誘導するのも肝心です。

 

攻撃的言動・暴力行為

 

もともと温厚だった人が、認知症を患ってから攻撃的な性格になる場合があります。

周囲に乱暴な言葉を放つほか、ときには暴力を振るうことさえあるかもしれません。

 

攻撃的になる理由はいろいろと考えられますが、その一つに、自身の考えを理解してもらえないことで感情が爆発してしまうことが挙げられます。

また、ご家族以外の人間に体を触られた際に、身を守ろうとしてとっさに手が出てしまうケースも考えられます。

 

相手が感情的になっているときは、それをいさめようとすると、かえって興奮させかねません。

攻撃的な言動や暴力行為が始まったら、慌てて対処しようとせず、少し距離をとって、冷静になるのを待ちましょう。

 

「介護疲れ」にならないためのポイント

 

認知症になると、ご本人が苦しいだけではなく、ご家族などの介護者にも大きな負担がのしかかります。

介護特有の悩みを抱え込んでしまい、介護者が「介護疲れ」や「介護うつ」に陥ることも珍しくありません。

 

最後に、そんな介護疲れにならないために意識したいポイントを紹介します。

 

家族だけで抱え込まない

 

介護疲れにならないためには、ご家族だけで抱え込まずに、周囲に相談できるサポート体制を整えましょう。

 

介護には、身体的・精神的な負担がともないます。

ご家族で協力しながら役割を分担するとともに、各種介護サービスを利用するのも一つの手です。

また、状況によっては、医師や看護師など、専門家の助けを借りるのも効果的です。

 

周りと比べない

 

介護には正解がないため、周りの方と比べて一喜一憂するのはおすすめしません。

 

認知症は、症状や進行に個人差があります。

同じ時期に発症した方より、ご家族の進行が早いと「介護の方法が間違っているのかも」と悩んでしまうかもしれませんが、そうとは限りません。

認知症の介護には、「これが正解だ」という答えがあるわけではないので、周りと比べずに、その人に合った方法を模索するのが大切です。

 

介護用品を活用する

 

介護用品を活用するのも、介護の負担を軽減するためのポイントです。

便利なアイテムを積極的に取り入れることで、自宅での介護が大幅に楽になります。

 

また、介護保険が適用される、車椅子や特殊寝台などの介護用品をレンタルできるサービスもあります。

ご本人の要介護度に応じて支給限度額が変わるため、利用する際は各種サービスに詳細を問い合わせてみましょう。

 

認知症の方と接する際は、気をつけるべきポイントを意識しつつ、ご家族だけで抱え込まないのが大切

 

本記事では、認知症の方と接する際に、してはいけないことや心がけることを解説しました。

 

認知症になると、これまで通りのコミュニケーションをとるのが難しくなるため、気をつけるべきポイントを意識し、柔軟に対応するのが重要です。

ご家族だけで抱え込むと、心身が疲弊し「介護うつ」に陥るリスクがありますから、状況に応じて介護サービスや医師のサポートを受けましょう。

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