なぜ再生医療で認知症を治療できるのか?藤宮峯子院長にその秘密を聞く
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これまで、認知症は完治が見込めない病気だとされてきましたが、研究が進められている再生医療によって、近年は効果的に治療できる可能性が見出されつつあります。
なぜ従来は叶わなかった認知症の治療が、再生医療では実現できるのでしょうか?
今回は、再生医療が認知症治療にもたらす効果について、当院の藤宮峯子院長に詳しくお話をお伺いしました。
「認知症をなんとかして治療したい」とお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
現代社会が直面している大きな問題の一つ、それが認知症
再生医療についてお伺いする前に、認知症の基本的な情報について教えてください
認知症は、加齢をはじめとするさまざまな要因によって脳の神経細胞のはたらきが損なわれることで、記憶障害や認識障害が発生する病気です。
具体的には、「数分前の出来事をすぐに忘れる」「昔から親しくしてきた人の名前が出てこない」「何度も通った道で迷ってしまう」などの症状が表れます。
今まで難なくやっていたことが急にできなくなるわけなので、患者さまご自身がおつらいのは当然のこと、周りの方にも肉体的・精神的負担がかかってしまいます。
そんな認知症が、今の日本において大きな問題となっていることは、みなさまもご存じの通りでしょう。
社会全体で高齢者の数が増えていくなか、比例するように認知症の患者数も増えてきています。
内閣府の発表した『平成28年版高齢社会白書』でも、2012年に462万人だった認知症患者数が、2025年には約700万人にまで増加すると予想されています。
「人生100年時代」とも言われる現代において健康的に長生きするためには、認知症への対策が必要不可欠なのです。
参照元:内閣府「平成28年版高齢社会白書」
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2016/html/gaiyou/s1_2_3.html
認知症にはどのような種類があるのでしょうか
アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、レビー小体型認知症など、認知症は原因の違いによっていくつかの種類に分けられています。
なかでも多くみられるのが、アルツハイマー型認知症です。
認知症の症例のうち約7割を占めており、もっとも一般的な認知症だといえます。
このアルツハイマー型認知症、これまではアミロイドβというたんぱく質の蓄積が発症の原因であるとされてきました。
しかし、実はそれが誤りだったのではないかと近年は考えられています。
後ほど詳しくお話しいたしますが、過去に私が実施した研究でも、アミロイドβとアルツハイマー型認知症のあいだに有意な関係を見出すことができませんでした。
つまり従来の医療では、アルツハイマー型認知症の本当の原因がわかっていなかったのですね。
しかし、アミロイドβが原因ではないのなら、一体何がアルツハイマー型認知症を引き起こしているのでしょうか?
「この疑問を解決すれば、認知症を治療できる方法も見つかるはずだ」と考えた私は、認知症の本当の原因を探るための研究に取りかかったわけです。
参照元:厚生労働省「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応」
https://www.tsukuba-psychiatry.com/wp-content/uploads/2013/06/H24Report_Part1.pdf
人体の全体像をとらえられない従来の医療では、認知症の治療は難しい
なぜ従来の医療では、病気の根本的な原因を解明できなかったのでしょうか
大きな要因の一つとして挙げられるのが、「人体を、全体像ではなく臓器や組織ごとにバラバラにとらえている」という点です。
これは認知症に限った話ではなく、従来の医療全体に共通している問題点だと私は考えています。
たとえば、具合が悪いので病院に行く、というシーンを想像してみてください。
消化器系の病気なら消化器内科、神経系の病気なら神経内科、あるいは糖尿病などの特定の病気では専門の診療科へ……といった具合に、診療科が細分化されていますよね?
各診療科の医師はその分野には精通しているものの、ほかの臓器についてはあまり詳しくありません。
そのため、たとえ全身の臓器が関連する病気だとしてもそれぞれの分野からしかアプローチできず、本当の原因をなかなか突き止められないのです。
現代医学における研究の方法にも、同じような問題が指摘できます。
臓器の働きや病気のもたらす影響などを研究する際に、体の中を直接見て確かめることはできません。
ですから現代医学では、観察したい組織や細胞の一部を体の外へ取り出して、状態を確認するのが基本となっています。
しかしながら、本来は体内に存在するものを取り出した時点で、もとの状態を再現することは不可能となります。
生体内とシャーレや試験管といった容器内では、当然環境が異なるからです。
このような細胞や組織を用いて、薬の効能をテストしたとしても、体内で想定通りに作用するかどうかはわかりません。
認知症をはじめとする数々の難病に対して有効な治療法が確立できないのには、こうした背景があるのです。
総じて、全体像をとらえるという観点の欠如、そして問題の発生している箇所とそれ以外の部分を切り分けてしまう研究のやり方、この二つが従来の医療の問題点だといえます。
認知症の原因を根本的に解決できなかったのも、ここに理由があります。
生体内と生体外に取り出した環境には、どのような違いがあるのですか
ひと言で言うなら、“流れ”の有無ですね。
脳や心臓、肝臓、消化管、腎臓、神経など、体内にある臓器や組織は相互に作用しており、さらにいえば、組織内にある細胞間でも影響し合っています。
この相互作用において重要な役割を担うのが、体内の各組織が正常に機能するためのサポート役である“間質細胞”です。
この細胞は、一部の組織に留まらず身体中のあちこちに絶えず動き回っており、問題が発生している細胞があればその箇所へ集まり、壊れた細胞を修復します。
いわば、細胞の“レスキュー係”というわけです。
ではこの間質細胞はどのようにして体内を巡っているのか? というと、その答えは“体液の流れ”にあります。
人体はその6割が水で構成されており、細胞と細胞のあいだに体液が流れています。
ほかにも血液やリンパ液などが流れており、人体では常に“流れ”が生じているわけですね。
この体液などの流れに乗って間質細胞が全身を巡り、体内の組織が互いに作用し合うというダイナミズムこそが、人体の本来の姿なのです。
ところが、現代医学の研究方法ではこの流れを確認することができません。
先ほど説明したように、組織を観察するためにはその箇所を取り出す必要があるわけですが、その際に薬品で組織を固定してしまうからです。
生体内と外部環境の違いは、まさにこの部分にあります。
「認知症をはじめとする種々の病気を根本的に治療するためには、現代医学とは異なるアプローチをしなくてはならない」
そのように考えた私は、以降、人体の“流れ”に焦点を当てて研究を進めました。
人体の自己治癒力にはたらきかける再生医療なら、認知症にも効果的にアプローチできる
どのような経緯で、再生医療のもつ可能性を見出されたのでしょうか
研究の中で発見したある物質の存在から、再生医療の可能性を見出しました。
「どうすれば人体のダイナミズムをとらえられるのか?」と考えた末に、私は電子顕微鏡によって細胞を観察する手法を選びました。
電子顕微鏡であれば約1万倍の倍率で細胞を観察できるので、細胞間に存在する相互作用も確かめられると考えたのです。
しかし、電子顕微鏡を用いる際にも組織の固定は必要となるため、結局はある瞬間の状態しか観察できません。
そこでヒントとなったのが、アニメーションの原理です。
アニメーションというのは、少しずつ変化が加えられた静止画像を連続で映写することで、映像としての動きを表現していますよね?
これと同じ原理で、連続した大量の組織切片を一枚一枚観察すれば、細胞間の動的な関係も観察できるのではないか、と思ったわけです。
それ以降、私は大学の電顕室に250日間ほど通いつづけ、脳だけではなくありとあらゆる臓器の電顕写真を合計約2万枚も撮影し、詳細に観察しました。
するとその過程で、アルツハイマー型認知症や肝硬変、慢性腎臓病、動脈硬化、がんといった慢性炎症を伴う病気に罹患していた方の臓器に、ある特徴的な物質が存在することを発見したのです。
その物質というのは、細胞と細胞のあいだにある数十nm(ナノメートル)ほどの微小な粒子です。
正常な臓器にはまったくみられないのに、慢性炎症のある臓器では細胞間をびっしりと埋め尽くしていました。
「この粒子には一体、どのような役割があるのか?」これを探るべく、私はさらに観察を続けました。
その結果、細胞間に存在する粒子は、障害の発生した細胞をレスキューするために間質細胞から放出されている、ということがわかったのです。
この粒子こそが、近年の再生医療で注目されている“エクソソーム”とよばれる物質です。
そのエクソソームは、再生医療においてどのように活用されているのでしょうか
もともと身体に備わった、間質細胞から放出されるエクソソームの治癒効果を、外からエクソソームを補充することで病気を治そうとするのが再生医療です。
間質細胞から放出されたエクソソームは体液の流れとともに全身を巡り、障害の起きている細胞へと到達しレスキューする。
これは人体がもともと備えている自己治癒力であり、どんな病気であってもこのメカニズムが作用するのが本来あるべき姿といえます。
ところがなんらかの要因で、体内でエクソソームが放出されなくなってしまう方がいらっしゃいます。
こうなると、自身の自己治癒力だけで病気に対応するのは困難と言わざるを得ません。
最終的には認知症やがんを発症し、さらにはその症状が悪化してしまうわけです。
ここで、再生医療が力を発揮します。
再生医療では、間葉系幹細胞という細胞が治療に利用されていますが、これは間質細胞のもととなる細胞です。
従って間質細胞と同様に、間葉系幹細胞からもエクソソームが放出されます。
この間葉系幹細胞を培養し、そこから出るエクソソームを体内に投与すれば、自己治癒力を発揮できない方でも治癒力を蘇らせる事ができるのではないか、というのが今の再生医療の狙いなのです。
細胞の相互作用について研究を重ねた末に発見したエクソソームを、再生医療で活用できないかと考えた結果、現在ルネクリニック東京院で提供している治療法に至ったわけですね。
具体的にはどのようなメカニズムで認知症の治療が可能なのでしょうか
脳内に存在する“アストロサイト”という細胞を、外部から投与したエクソソームによって活性化させることで認知症の改善を図ります。
これまではアミロイドβの蓄積が認知症の原因ではないかと有力視されていましたが、最近の見解としては関係性が薄いのではないかと考えられています。
私自身の研究においても、大学に献体された方の脳を100体以上解剖して調べた結果、アミロイドβが溜まっていても認知症になっていないケースがいくつもあったのです。
であれば、アミロイドβ以外に原因があるとしか思えない……と考え研究を始めたというのは、すでにお話しした通りですね。
そして研究の末に、脳内のニューロン(※)の周りに存在するアストロサイトが、認知症の発症に大きく影響していることを発見しました。
アストロサイトとは、脳における間質細胞にあたるもので、ニューロンが正常に機能するのをサポートしています。
アミロイドβが溜まっていても脳の機能が正常に保たれている方は、このアストロサイトが非常に活性化していました。
つまり、アストロサイトを活性化できればニューロンの機能が正常化し認知症を治せる可能性があるわけです。
「では、どうすればアストロサイトを活性化できるのか?」と考えた結果、私はエクソソームが利用できるのではないか、という結論に至りました。
アストロサイトが活性化していない方は、脳内のエクソソーム量も少ない傾向にありました。
これは裏を返せば、脳内のエクソソーム量を増やしてやればアストロサイトが活性化し、二次的にニューロンが活性化することを意味しています。
そこで、再生医療としてエクソソームを投与すれば、障害されたニューロンの機能を元へ戻すことができる、と考えたわけですね。
※ 脳の神経細胞。情報の伝達と処理を行う
ルネクリニック東京院では、どのような治療を行っているのでしょうか
当院では、乳歯の歯髄から間葉系幹細胞を採取し培養して増やします。
間葉系幹細胞からエクソソームが培養液中に放出されるので、それを集めて患者さまに点鼻で投与していきます。
なぜ鼻から投与するのかというと、鼻孔の天井部分には脳から“嗅神経”という匂いを感じる神経が降りてきていて、その場所は脳へのバリアー機構が弱くなっている為、投与した成分が脳に効果的に届くのです。
一方で、血管注射では全身にエクソソームが拡散し、脳へ届く量が少なくなってしまうので得策ではありません。
点鼻投与で高濃度のエクソソームが脳に入り、脳脊髄液の流れに乗って広い脳領域でアストロサイトに取り込まれ、ひいてはニューロンの機能を高める、まさに私のこれまでの研究成果が集約された治療と言えます。
一つの病気や要因に囚われるのではなく、自身の自己治癒力を高めることが大切
認知症の発症を誘引する要因を教えてください
認知症を引き起こす原因としては、ストレスや遺伝的な要因、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害など、さまざまものが挙げられます。
ただ、それぞれの原因に個別に対応するよりも、日頃からご自身の自己治癒力を高めることが大切だというのが、私の考えです。
繰り返しにはなりますが、人体には本来、病気に対抗するための自己治癒力が備わっています。
これが正常に作動していれば、病気にならずに寿命を全うできるはずなのです。
病気や問題のある臓器を別個に切り離して考えるのではなく、全体として包括的に改善しようと努めることが、健康に生きるための秘訣ですね。
自己治癒力を高めるには、具体的に何を意識すればよいでしょうか
まずは生活習慣、特に食生活が乱れないように意識してください。
自己治癒力が失われて何かしらの病気に罹患する方は、食生活が乱れているという点で共通しています。
甘いものばかり食べて糖尿病になったり、アルコールの過度な摂取によってすい臓がんになったりするのは、その最たる例といえますね。
また、糖尿病を患っている方は、認知症を発症する頻度が高いことも知られています。
くわえて、脳と腸のあいだには“脳腸相関”という関係もあります。
これは、腸内細菌の種類やその状態が、脳の機能にも影響を及ぼしているというものです。
食生活が乱れて腸内環境が悪化することで、脳に悪影響が出る可能性があるわけですね。
認知症にならずに健康で長生きするために、まずは“食”から生活を見直していきましょう。
レジリエンスをもって前向きに生きることが、認知症予防の第一歩です
認知症で悩まれている方や、ルネクリニックへの来院を考えられている方へのメッセージをお願いします
“レジリエンス”をもつことを心がけてください。
“回復力”や“再起力”と訳されるレジリエンスは、「困難に立ち向かい乗り越える力」という意味合いで使われています。
実はこのレジリエンスの有無が、今回説明した自己治癒力に大きな影響を与えているのです。
レジリエンスがない、つまり困難に直面した際に弱気になってしまう方は、エクソソームの放出量が少なく自己治癒力が低下してしまう傾向があります。
ですから、認知症のみならず他の病気を予防するうえでも、ストレスや逆境に立ち向かい、目標を達成しようと奮闘する姿勢をもつことが肝心なのです。
しかし、誰もがそのような気持ちを維持できるわけではありません。
生まれついての性格やその時々の状況次第で、頑張ろうとする気力を失ってしまうこともあるでしょう。
そのようなときは、ぜひ当院に来て私にお話を聞かせてください。
会話を通して心のもやが晴れれば、「病気に負けない」強い気持ちになれるかも知れません。
レジリエンスをもったうえで再生医療による認知症治療を受けて、実りある人生を手に入れてください。
① 治療方法 治療薬を鼻腔内に1滴ずつ垂らし、迅速に脳内に薬を届ける治療法です。 痛みはなく、仰向けの状態で30分程度の治療時間を要します。 治療回数は1クールで4回、治療期間の目安は約1ヶ月間となっております。 ② 副作用リスク ・アレルギー反応などを伴う場合がございます。 ③ 連絡先 ④ 費用 ⑤ 入手経路 ⑥ 効能に関する国内の承認機器・薬剤の有無 ⑦ 安全性に関する諸外国の情報 ⑧ 未承認である旨 ⑨ 未承認薬・機器 |