認知症による暴力に周囲はどう対応する?対処法を解説
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認知症が進行すると、複合的な問題が要因となって、周囲に暴力を振るってしまう場合があります。なかには、認知症による家族の暴力に悩んでいるものの、周りの方に状況を打ち明けられずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
そこで本記事では、数々の具体例を挙げて、認知症による暴力への対処法を解説します。この記事を最後までご覧になれば、いざというときに、慌てず適切に対応できるので、ぜひ参考にしてください。
【症状別】認知症で攻撃的・暴力的になる理由
認知症を患っている方の一部が、攻撃的になり暴力を振るうのは、脳の認知機能が低下し、さまざまな要因が積み重なるためです。
ここからは、認知症を4つに分け、なぜ暴力を振るってしまうのかを深掘りしていきます。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉と側頭葉が委縮し、認知機能が低下することで起こります。
「本能の赴くままに行動する」という行動パターンが出現し、4つの認知症のなかで、興奮による暴力や暴言がもっとも多いのが特徴です。
自分の思い通りにならないと、周囲の方に制止された際に、暴れて暴力を振るってしまいます。脳領域が破壊された影響で、社会性を無視した行動を取ることも多く、どんなに心の穏やかだった人でも暴力的な人格に変貌します。
関連記事:認知症にはどのような症状がある?治療法もあわせて解説
アルツハイマー型認知症
アルツハイマー型認知症は、もっとも患者数が多い認知症で、症状の初期段階から性格や感情の変化が見られることが多いです。理解力や判断力の低下、感情のコントロールがうまくできないことが、暴言や暴力につながります。
具体的には、身近な人に大声をあげて威嚇したり、殴りかかろうとしたりします。
脳血管性認知症
脳血管性認知症では、感情のコントロールができない「感情失禁」の影響から、ほかの認知症よりも怒りや悲しみの感情が現れやすいのが特徴です。
感情失禁とは、脳の血管のダメージにより、感情がうまくコントロールできなくなる状態のことです。たとえば、人が悲しんでいるときに笑う、うれしいときに怒るといった裏腹な感情が表出するのが特徴です。
感情をうまく制御できないことが、本人の苛立ちにつながり、身近な人に暴力的になってしまいます。
レビー小体型認知症
レビー小体型認知症では、「レビー小体」という特殊なたんぱく質が脳内に蓄積し、神経伝達が阻害されることで、認知機能の低下が引き起こされます。
この認知症は、特に幻覚・幻視や妄想の症状が現れやすいです。本人は、恐怖や不安から混乱した状態に陥っていることが多く、それらを取り払おうとして興奮状態になった結果、暴力的になります。
認知症患者による暴言・暴力が起きる原因
ここからは、なぜ認知症を患うと暴言や暴力が起きてしまうのか、その原因を探ります。
原因①不安を感じて混乱している
認知症の方が暴言や暴力を振るうのは、現在置かれている状況が不安であるからです。
認知症を発症すると、自分の置かれている状況をうまく言葉で伝えるのが困難になります。その結果、相手との適切なコミュニケーションが難しくなり、不安からイライラして周囲の方に暴力を振るってしまうわけです。
原因②感情がうまくコントロールできない
前頭葉の委縮により認知機能が低下して、感情のコントロールができなくなるのは、認知症による暴言や暴力が起きてしまう要因の一つです。
感情のコントロールがうまくできないと、軽度な刺激に激怒したり、泣いたりして興奮状態になります。暴言だけでなく、周囲へ暴力を振るうこともあり、迷惑をかけてしまいます。
関連記事:怒りっぽいのは認知症のせい?因果関係や見分け方を解説
原因③周囲の感情に巻き込まれている
認知症の方は、周囲の方の表情や態度から、感情を読み取ることに長けています。ただし、相手がその感情に至った理由や、誰に対する感情なのかを読み取るのは得意ではありません。
周囲の状況が望ましくないものだと、理由がわからず、不安が助長されるので、暴言や暴力につながってしまうことがあります。
原因④自尊心が傷つけられている
認知症が進行すると、記憶力や判断力が低下して、不可解な言動や行動が増えていきます。しだいに、周囲の方からの否定的な言葉や注意も多くなり、それが患者本人の自尊心を傷つけることにつながります。
その結果、周囲に攻撃的になり、暴言や暴力が増えてしまうのです。
原因⑤体調が悪い
認知症の方は、自分の体調を理解して、周囲に伝えるのが得意ではないので、具合が悪くても気づいてもらえないというケースは珍しくありません。
特に、認知症によって失語症も発症してしまった方は、このような状況にストレスが溜まり、暴言を吐くようになります。
原因⑥薬の影響
薬の影響が、暴力を振るってしまう症状を引き起こしているかもしれません。具体的には、治療薬そのものと飲み合わせによる2つの影響が考えられます。
パターン①治療薬
認知症の進行を緩和する薬としては、多くの場合「アリセプト(ドネペジル塩酸塩)」が処方されます。ただし、この薬には副作用として、下痢や嘔吐、食欲不振、興奮、暴力行為などが発生すると指摘されているのです。
アリセプトを服用してから、副作用が見られた場合は、投薬を止めることで症状が改善する場合があります。投薬の中止は、個人では判断できないので、必ずかかりつけ医に相談してください。
パターン②薬の飲み合わせ
数種類の薬の飲み合わせによって、暴力性が引き起こされているケースもあります。高齢の方は、持病でほかの薬も服用している場合が多いです。その際に、薬の飲み合わせが悪く、症状が出ている可能性も考慮しなくてはなりません。
このような場合は、薬を変える、減らすといった処置で改善が期待できます。いずれにせよ、かかりつけ医や、薬剤師などに相談するのがよいでしょう。
認知症による暴言・暴力への適切な対処法
認知症による暴言や暴力を止めさせることは、非常に困難を極めます。それでは、家族や周囲の方は、どのように対応するべきなのでしょうか?
次項から、項目別に詳しく解説します。
物理的・感情的な距離を取る
患者本人が暴力的になっているときは、巻き込まれないように、その場から離れてください。物理的な距離を取ることで、お互いに落ち着きを取り戻し、双方の安全を守ることができます。
決してやってはならないのが、暴言で返したり、力で押さえつけたりする行為です。
興奮状態の相手にそのような態度を取ると、余計に興奮させてしまい、収拾がつかなくなります。
関連記事:認知症の方との接し方|してはいけないこと・心がけること
誰かに話を聞いてもらう
患者本人の暴力や暴言に疲れたら、誰かに話を聞いてもらいましょう。医師やケアマネジャーといった専門の方に相談すれば、効果的なアドバイスや対応方法を教えてもらえます。
誰かに悩みを話すだけでも、心が軽くなるので、一人で悩まず周囲を積極的に頼りましょう。
第三者に介助を依頼する
認知症の方の暴言や暴力は、第三者の存在によって効果的に防げることが知られています。
そこで、自身の心の健康のためにも、思い切って専門家に介護を任せるのも手段の一つです。プロに任せることで、患者本人が適切なサポートを受けられるだけでなく、家族の負担も減るので、それぞれの生活が安定します。
症状だと理解して原因を探る
暴言を吐かれたときは、原因を探って理解することが症状の緩和につながる場合もあります。本人がイライラしている原因は、主に下記が考えられます。
【機嫌が悪いときの原因】
- 寝不足
- 環境の変化
- 薬の影響
- 自分への対応の変化
日常生活で、注意深く様子を観察すれば、具体的な原因がわかるかもしれません。
薬物療法を受けさせる
認知症の治療には、薬を使用して治療する「薬物療法」と薬を使用しない「非薬物療法」の2つがあります。暴言や暴力を抑えたい場合、薬物療法を選択するのがよいでしょう。
薬を使用した治療は、認知症の症状緩和、進行抑制が目的なので、完治させることはできません。しかし、攻撃性や興奮状態は緩和されることから、暴言や暴力といった衝動を抑える効果があります。
もちろん、薬には、飲み合わせや個人の合う、合わないがあるため、薬物療法を検討している場合は、必ずかかりつけ医に相談してください。
施設へ入居させる
認知症の方を施設へ入居させることは、患者本人と家族の双方にメリットを生む場合が多いです。
認知症と向き合うには、忍耐力が求められるため、介護者が精神的に参ってしまったということを耳にしたこともあるかもしれません。我慢ばかりしていると、介護者にもいずれ限界が来てしまいます。そうならないためにも、患者本人の施設への入居を検討することは大切です。
施設によっては、認知症に詳しいスタッフが常駐しているため、何か問題があっても適切に対応してくれます。双方の心と体の健康のためにも、施設にすべて任せるのも一つの手です。
命に関わるときは警察を呼ぶ
介護者の命に関わるような事態が起きたときは、すぐに警察へ連絡してください。認知症による行為であれば、刑事責任が問われることはほとんどありません。
警察だけでなく、とにかく周りにも助けを求めましょう。自治体の地域包括支援センターに相談すれば、施設入居の案内や一時保護といった対策を提案してくれます。
介護者の詳しい相談先は後述しているので、ぜひそちらをご参照ください。
攻撃的・暴力的な認知症患者と関わる際の注意点
患者本人が、すでに攻撃的、暴力的な状態になっている場合、これ以上エスカレートさせないために、周囲が実践すべき接し方がいくつかあります。
接し方で意識したいポイントは、下記を参考にしてください。
本人の言動を否定しない
患者本人の言動がおかしくても、否定せずにいったん受け止めて、肯定してください。やることなすこと全部に否定から入ると、本人の自尊心を傷つけてしまいます。
また、やりたいことを力ずくで制止したり、嫌がることを強要したりするのは、大きなストレスとなり、暴力につながるので覚えておきましょう。
ほかのことに関心を向けさせる
相手が興奮状態にあるときは、ほかのことに関心を向けさせ、気を紛らわすのも有効な手段です。孫の写真を見せる、好きな音楽をかけるといった方法で、心を落ち着かせることができます。普段から、注意をそらす方法をいくつか考えておくのがおすすめです。
丁寧でわかりやすい話し方を意識する
認知症の方と接するときは、コミュニケーションの仕方を工夫するという意識を持ちましょう。具体的には、頭ごなしに否定しない、丁寧にわかりやすく話すといった取り組みが必要になります。
本人ができることは、自尊心を傷つけないために任せて、寄り添うべきところは頻繁に声をかけて不安を払拭します。このように、対応にメリハリをつけることが大切です。
自分自身の感情を大切にする
認知症の家族と接していると、どうしてもイライラすることは多いです。「家族に苛立ってはいけない」と自分を責めてしまうこともあるかもしれません。しかし、自身の感情を蔑ろにすると、あとからつらくなるのは介護者側です。
否定的な感情が沸くのは、人間であれば当然のことですから、仕方のないことと捉えましょう。自分を責めるのではなく、日々の生活のなかで、しっかりとストレスを解消することが大切です。
力で対抗しない
もっともやってはならないのが、暴力を振るう相手に暴力で対抗することです。
感情が高ぶって怒鳴り返す、自衛のために手が出るといった行為は、むしろ当然の反応ではありますが、そのようなことをしても状況がよくなることはありません。理解してもらおうと一生懸命説得しても、介護者側が消耗するだけです。
身の危険を感じたときは、一度その場を離れるのが一番有効だと言えます。
身体を拘束しない
認知症の方の身体を拘束することは、絶対にやってはならないことの一つです。興奮状態の患者を身体拘束したとしても、落ち着くことはなく、状態が悪化するだけです。
身体拘束は、認知症患者の生活レベルを低下させるだけでなく、症状の進行を早める可能性もあります。人としての尊厳を忘れずに接するよう心がけましょう。
介護者の相談先
認知症の介護は、介護者に想像以上のストレスを与えます。たとえ介護の対象者が、長年連れ添った家族だったとしても、ときにはすべてを投げ出したい気持ちになるのはごく自然であると言えます。そのようなときは、一人で抱え込まず、然るべきところに相談するのが一番です。
ここからは、誰でも相談できる窓口を紹介しますので、介護に行き詰った場合は、ぜひ活用してください。
認知症疾患医療センター
各都道府県が指定する認知症専門の医療機関が、認知症疾患医療センターです。認知症に関する相談を幅広く受け付けており、対応方法もアドバイスしてくれます。
気になった方は、お住まいの都道府県の医療センターを検索して一覧をご覧ください。
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、医療や介護に関わることなら、どんな些細な相談でも受け付けている総合窓口です。医療や介護の専門職の方が配置され、地域のさまざまな情報が集まります。
「どこに相談しようか迷う……」という方は、まずは地域包括支援センターへ相談するとよいかもしれません。
認知症地域支援推進員
認知症の方が、適切な行政サービスを受けられるように、患者本人やその家族を対象とした相談業務を行うのが認知症地域支援推進員です。推進員は、主に認知症相談センターや地域包括支援センターに配置されていて、地域の支援機関のあいだの連携支援や、認知症の人とその家族の相談を受け付けています。
お住まいの地域によって、推進員の活動状況、場所は異なるので、各自治体へお問い合わせください。
認知症による暴言や暴力には理由があることを知って、適切に対処する
今回は、認知症による暴言や暴力への対処法を解説しました。
認知症による暴言や暴力は、周囲に危害を加えるだけでなく、介護者の心も疲弊させてしまいます。しかし、適切な接し方を把握していれば、いざ暴力的な兆候が見られたときにも、慌てず冷静に対処できるでしょう。
ただし、家族だけでは解決が難しいこともあるので、そのような場合は、専門の医療機関や窓口に相談してください。
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ぜひお気軽にご相談ください。
① 治療方法 治療薬を鼻腔内に1滴ずつ垂らし、迅速に脳内に薬を届ける治療法です。 痛みはなく、仰向けの状態で30分程度の治療時間を要します。 ② 副作用リスク ③ 連絡先 ④ 費用 ⑤ 入手経路 ⑥ 効能に関する国内の承認機器・薬剤の有無 ⑦ 安全性に関する諸外国の情報 ⑧ 未承認である旨 ⑨ 未承認薬・機器 |